大変楽しめました。それぞれのストーリーがスパイスが効いていて、どんでん返しも楽しめます。しかし何よりもすばらしいのは、登場する刑事たちのキャラクターです。それぞれトラウマを抱えていたりもするのですが、決して感傷に流れた描写は行われません。それがかえって、抱えているものの重みを感じさせました。
多くの刑事が登場しますが、それぞれの個性が、考え方や動作や捜査方法などに現れ、一人一人の人物がくっきり見えるようです。登場人物の多さがまったく苦になりません。必要充分で硬質な描写が見事の一言です。その研ぎ澄まされた文体が、人物の硬質さや事件の緊迫感を高めていて、迫力があります。
傑作です。ですが・・・。おすすめ度
★★★★☆
とても面白い。
「動機」や「陰の季節」あたりよりは格段にスリリングだし、「半落ち」をしのぐ横山秀夫の最高傑作だ、との声も否定するものではない。
ただ、私にとってはあまりに「面白すぎる」というか、過剰なまでの読者サービスを感じてしまうのが、ちょっと興ざめなのだ。
料理に例えるなら、最初の一口から美味しすぎる、というか、インパクトの強すぎる味、というか。
「最初はあっさりしているが、食べ進むうちに徐々に滋味が湧いてくる」というような味とは全く違う。
まあ、贅沢かつ我が儘な感想であることは重々承知しているのだが・・・。
お勧めですおすすめ度
★★★★★
横山秀夫の作品の中でもナンバー1だと思います。
短編集ですが、それが逆にテンポを良くしています。どの登場人物も”いい味”出してます。
是非続編も期待したいですね。
読み終えても何度も読み返したくなる警察小説の傑作短編勢揃い!
おすすめ度 ★★★★★
以前に読んだ『影の季節』と『動機』から受けたインパクトが大きく、自然と次なる作品に手が伸びた。本書にはタイトルの「第三の時効」を含む計6本の短編が所収されているが、すべてを読み終えると1つの繋がりをもった長編小説としての体裁を十分に整えているという印象である。すべての短編がすでにテレビ放送化され、なんとなくテレビを通じて見ていた光景が浮かんできた。私としては、「第三の時効」という謎めいた、そして意外な真犯人を暴き出す巧妙な仕掛けを巧みに描いた作品以上に、「密室の抜け穴」と「ペルソナの微笑」がとても興味深かった。長時間に及ぶ会議、いやその会議が行われている会議室それ自体が実は「密室」であったという結末には驚嘆したし、そこへ至るストーリー展開も見事である。「ペルソナの微笑」は、その構想をどのような経緯で思い付いたのか是非とも知りたいと思った作品である。子供を殺人の「道具」に利用するという悪質極まりない犯行ではあるが、それを(学生時代に落語研究会に所属していた)刑事の言動がそれを冷静にさせ、後味のよい締めくくりになっており好感が持てた。「囚人のジレンマ」という作品も、この言葉が経済学のゲーム理論のなかに登場する重要な概念として使われていることもあり、その表現が有するリアルな臨場感を味わうことができた。警察機構、特に捜査第一課強行犯係の3つの班同士が抱える熾烈な葛藤や、それを束ねる刑事課長・部長の内面を鋭く炙り出す作風と文体に、多くの読者が惹き込まれるだろう。すべての作品がその「出だし」からすんなりとわれわれを横山ワールドに引き入れる神秘的ともいうべき雰囲気を醸し出している。巻末の「解説」には、本書の諸作品を貫いているのが、手柄を競ってせめぎ合う刑事らの「心理的ダイナミズム」の鮮明な描写であると書かれてある。「心理的ダイナミズム」、この言葉で作品の理解が更に深まった気がした。