今なお色褪せないストーリーおすすめ度
★★★★☆
日本が貧しかった時代、人々は少しでも良い暮らしを求めてブラジルに旅立った。「海外移民収容所」「渡航用品廉売店」「移民会社」など今は存在しない言葉が出てくると1930年代の話だと気づくが、庶民が少しでも良い暮らしを求めて懸命に努力する様は今に通じるものを感じる。上巻では移民たちのはやる気持ち、新しい生活への期待と不安、もう引き返せないという切ない気持ちが混ざり合い、何ともいえない物憂さが表現されている。いつの時代の人間も同じような状況には同じような気持ちを抱くのだと本書を通じて気づかされた。
健忘症の日本人にならないために
おすすめ度 ★★★★★
昭和5年、日本各地からブラジル移住をめざす約千人が、神戸の移住者収容所に集合するところから、この小説は始まる。移住船が出港するまでの様々な準備、そして一月半の航海をへて、最終目的地であるブラジルの農場に着くまで、移住者の共同生活を通して、日本社会の悲観的な現実と彼らの夢が描かれる。当時の日本には、将来に対する不安を抱えていた多くの人々がいた。70年後の今日では、状況は一転して、日本での生活を夢見るアジア諸国の人々がいる。しかし彼らの大部分にとって、日本への道のりは絶望的に遠い。かつてブラジルほかいくつかの外国が、日本人を受け入れてくれたことを思い出せば、外国人労働者を見る目が少し変わるかもしれない。