政界と財界の癒着の構図おすすめ度
★★★★★
岐阜県との県境にある福井県大野市の九頭竜ダムは、紅葉の名所として知られている。このダムの建設を巡っては、昭和39年に「最高額」で入札した鹿島建設が落札したことにより、汚職がなされたのでははないかとの疑惑を持たれたことがある。しかし検察のメスが入ることはなく、真相は闇の中である。
この疑惑をもとに石川達三が小説として構成したのが『金環蝕』であり、社会派の映画監督として知られる山本薩夫が映画化した。一応フィクションではあるものの、かなりの程度、真実に迫っているのではないかと思わせる出来映えだ。
本作に登場するのは全て架空の人物・団体であるが、実在するものをモデルにしていると言われている。多くの人物が描かれているが、いずれもストーリーの形成に重要な役割を果たしているので、映画(または小説)を鑑賞する際には登場人物が現実の誰をモデルにしているか押さえておくと理解が深まると思う。
映画は宇野重吉、三國連太郎、西村晃等の俳優陣の演技が素晴らしく、作品に重厚な深みを与えるのに寄与している。小説と比べると細部が省かれているのはやむを得まい。映画も小説もともに完成度は高いのでどちらもお薦めできる。
安倍政権について「政治と金」が問題とされたが、そのような出来事も単なる些事としてしまうような「政界と財界の癒着」というより深い闇が、今日も政治の底流にあるのかもしれない。
「周りは金色に輝いて見えるが、中の方は真っ黒に腐っている」
――金環蝕
名優たちの演技合戦おすすめ度
★★★★★
日本の政治ドラマとしては傑作の部類に入る。ダム建設をめぐる汚職と金の腐敗政治や企業・政治家の権力闘争もおもしろかったが、演じる俳優がみな名優で彼らの演技をみているだけでも面白かった。
三国連太郎の政界の爆弾男、仲代達矢のオカマちっくなキレモノ官房長官、宇野重吉が貧相なメイクで演じる金貸し、西村晃の土建屋丸出し、そしてエリート企業幹部を演じさせたら右に出る者はない神山繁、内藤武敏、永井智雄、根上淳らも好演していた。そして神田隆(佐藤○作)と久米明(池田○人)のそっくりぶりも楽しかった。
原作に忠実おすすめ度
★★★★★
石川達三の、まことに骨太な、ビジネスと政治の裏側を抉り出す本格作品を、ほぼ忠実に映画化した。よくぞ原作の意図と味わいを風化させずに、ストレートにえぐりだした映画作品に仕上げているのは、まさに山本監督の真骨頂であろう。仲代達也は、ここでもはまり役である。
なんとも後味の悪い映画おすすめ度
★★★★★
大映が総力を挙げてオールスターキャストで描いた名作。しかし勧善懲悪どころか登場人物すべてが悪人という面白い構成は、若干配役で失敗の感を免れえない。主役級の俳優を惜しげもなく脇役に当てはめたキャスティングは、もっと別の役なら生かせたであろう出演俳優の持っている個性を完全には生かしきれていない。ストーリーに関しては実話に基づいているだけにケチのつけようもないのだが、この当時には相当幅を利かせていたであろうはずの暴力団が全然絡まないことに違和感を覚える。石原(=森脇)にしても頼りにする先はいつも零細で、冒頭の威勢の好さからは想像もできないくらいある時点を境に弱々しい爺さんに成り下がってしまう(宇野の演技に相当助けられた)。一度観てみると後味の悪さのなかに社会の闇が見えて、感慨深くさせられるが、二度目には後味の悪さだけが残り、三度目には妙なストーリー展開の部分と後味の悪さだけが色濃く残る。名作だが、非常に微妙な気持ちになる一作だ。
政界の腐敗を描いた佳作おすすめ度
★★★★★
山本薩夫監督の政界金権腐敗体質を暴く快作です。
過去ビデオで初めて見た時に「こりゃ面白いっ!!!」と
親にも見るように薦めたのを思い出しました。
今回DVDを購入し、改めて再見して思うことは、
昔も今も政界の体質って基本的に変わらないんじゃないだろうか、
ってことです・・・。
最後はマルサの女2と同じく、ちょっとやるせない
現実を感じさせる終わり方かも?
ストーリーはスケールが大きく、俳優陣も実に豪華。
政界のマッチポンプ役の三国連太郎のダム入札疑惑についての
証人喚問シーンはケレン味たっぷりの演技で見所の一つでしょう。
概要
民政党現総裁の寺田は同党最大派閥の酒井を破り、再び総裁に就任したが、その選挙工作費用で10億円以上の額を使ってしまったことから、寺田陣営はダム工事入札に絡み、5億円を捻出しようとする…。
昭和39年に起きた事件をもとに記された石川達三の同名原作小説をベースに、政財界の内幕と総裁の座を争う政治家たちの姿を『戦争と人間』などの巨匠・山本薩夫監督がオールスター・キャストで描いた社会派大作。「周りは金色の栄光に輝いているが、その中身は真っ黒に腐っている」というのがタイトルの意味だが、その通り、ここにはドロドロに腐った腹黒い者たちが多数登場して蠢きあう。こうした悪党を描かせたら山本監督の右に出る者はいないだろう。またキャスト陣もここではそれぞれ悪人演技を楽しそうに怪演しており、まるで物の怪ショーを観ているかのような快感もある。政治家たちに茶化した拍手を送るつもりで作曲したというメインタイトルなど、ブラックな味わいに満ちた佐藤勝の音楽も出色である。(増當竜也)