9つの物語おすすめ度
★★★★★
あとがきで訳者の野崎氏が言及されているように、この短編集では多くの子供たちが登場する。
そして、僕は、サリンジャーは子供という存在を描くのが抜群に上手いと思う。
サリンジャーの描く子供、それは、ただ幼く無垢なだけの存在ではない。
幼いながらも、そこに大人顔負けの哲学性を持った存在として描かれている。でも、それを幻想的だとは思うけど、虚構だとは思わない。
というより、思わせないリアリティがサリンジャーの小説にはある。
また、サリンジャーはあたかも絵を描くかのように、小説を書く人だと思う。
そう感じてしまうのは、場面転換の描写があまりないせいだと思うけど、それでよけいに幻想的に思えてしまう。
今はもう隠遁してしまっているようですが(シド・バレットみたいにいきなり訃報が届くのはやめてくれ!)、どうかもう一度筆をとってほしいものです。
歯医者の待合室で読む?クールな短編おすすめ度
★★★★★
サリンジャー自身が「どうせ所詮は歯医者の待合室で暇潰しに読むような小説」と自嘲していますが、この頃、アメリカの歯医者は不勉強で「ニューヨーカー誌」が置いてないんですよ。だから、ショウガナイから、「フォーブス誌」を読んで誰が今一番金持ちのアメリカ人なのか研究したり、「ビジネス・ウィーク誌」なんかを読んで最近のスモール・ビジネスについて知見を増やしたりする羽目に陥る事が多いです。
でも、もし歯医者でこんな小説が読めたら最高ですね。もっと歯医者で待たされても平気です。「バナナフィッシュにうってつけの日」「笑い男」「小舟のほとりで」なんかに出て来る若い女性達なんか、今でも十分スノッブで、今でも十分カッコいいです。
野崎孝の日本語も懐かしい。サリンジャー&野崎の定番本。
愛読書として('-,_ω-`)プッおすすめ度
★★★★☆
サリンジャー自選の短編集。9個もあれば一つくらい気に入るのが見つかるんじゃないですか。('-,_ω-`)プッ
個人的にはほぼすべて楽しめました。特に大きなイベントが起こることはないんですが、なんでしょう、淡々と綴られる日常に惹き付けられるものがあります。少しばかり鬱な話も含まれています。
話そのものというよりかはこの作者の心地よい筆致で書かれた文章に魅力を感じるのでしょうか。読んでいるだけで不思議な安心感があります。
ただやっぱり翻訳物は読みにくいです。意味を掴み難いところも結構ありました。だが、それでもいいさ。名作は名作なんだから。('-,_ω-`)プッ
概要
1953年に出版されたサリンジャーの自選短篇集。「グラース家の物語」の発端となるシーモアが登場する「A Perfect Day for Bananafish」、WASP中心のアメリカ社会で助けあいながら生きていくユダヤ人親子を描いた「Down at the Dinghy」、男女の不倫を描いた「Pretty Mouth and Green my Eyes」など、9つの作品が収められている。中には、ドイツ製のルガー拳銃の性能を証明するために、ヒヨコの頭を撃ち抜いたヘミングウェイの残忍性を風刺して書かれたといわれている、次のような作品もある。 ノルマンディー上陸作戦に向けて3週間続いた特殊訓練を終えたX軍曹は、喫茶店で1人の少女に声をかけられる。先ほど教会の児童合唱隊で、ひときわ美しい声で歌っていた少女だ。さびしそうにしていたから声をかけてみたと言う少女と、彼はつかの間の平穏なときを過ごす…。やがて戦争は終わるが、X軍曹は心身ともに深い傷を負う。ある日、彼は手元にあった小包を開く。中にはあのときの少女からの手紙と、彼女の父親の形見である腕時計が入っていた。2人が共に過ごした時間は、長い人生においてはほんの一瞬のできごとに過ぎない。それでも、少女の手紙には、彼に安堵の眠りと魂の救済をもたらす不思議な力があった。(「For Esme-with Love and Squalor」)
発表以来、精神分析や東洋思想などの立場から、さまざまな文学的解釈がなされている短篇集であるが、読み物としても十分おもしろい。何年かたってから読み直せば、以前は見えなかったものが見えてくるような、味わい深い作品である。(小川朋子)