2007年の5月から11月までアフタヌーン誌上の連載が2007年12月に22巻として早くも出版された。不死解明編の前半では単調で展開が異常に遅かったので(特に15,16巻では綾目と暗い牢屋しかでてこないことがあった)心配したが、21巻より始まった六鬼編では初めから展開が速く場面も多彩で非常に面白い。この22巻では登場人物がなんと五勢力(万次と凛、逸刀流(天津、槇絵、凶、阿葉山、馬呂)、無蓋流(百淋、偽一)、六鬼衆(はばき、リョウ、たんぽぽなど)、英干彦(チャイナドレスのクノイチ団))にわかれかなり複雑になっているが、ストーリーは極めてうまく交通整理され混乱も見られず、はやくも伏線と謎がちりばめられ(なぜ逸刀流は分かれたのかなど)、読者はぐいぐいと話にひきこまれる。ここまでくるといつかはNHKの大河ドラマになってもおかしくない。不死解明編で一時みられたような画の乱れもみられず、相変わらず画面の構成力は日本一うまいと思う。またいつもどおりの細部の設定がリアリティーを与える。例えば、「抑えるのは水戸道、東海道か上総道。水戸路での丸一日の差は大きいですよ。江戸からここまで四度も渡河しなければならないですからね。それはつまり馬では追えないということ。冬場は徒渡しもなく川一本につき半刻はかかる。」というようなセリフが作品の江戸時代の世界観に安定観を与えている。こういう宿題をしっかりする漫画家というのは実は案外少ない。あと拷問マニアともいえる作者による拷問の描写が相変わらず極めてリアルで怖くて(「これを続けていくとね、ここが薄くなって光がすけるようになるね。あと関節が八箇所ほど外れて背が一尺ほど伸びるよ。言っとくけど気絶しても続けるから、意識があるうちに教えて欲しいなあ。」)、作品に暗い深さを与えている。一方でバランスをとるようにコメディーリリーフも多数挿入され、宗理先生や辰やたんぽぽなどの場面は楽しい。
一つ目は天津と槙絵の愛が演歌の歌詞をコピーしたような紋切り型で、退屈。はばきと奥さんの壮絶な愛情と比較するとどうしても平面的に見える。歌舞伎のような形式美的なものを入れて格式を入れたい作者のねらいはわかるが、もうすこし工夫がほしい。二つ目は巻末についている付録的な数ページとカバーの帯の漫画。おそらく作者とその関係者と一部のマニアにしかわからないような全く意味のない冗談の羅列と小学生の落書きレベルの絵。読者はお金出して買ってるんだから、もう少し一般の普通の読者が喜ぶようなものをつくってほしい。連載の初期にあったような武器の説明とか、江戸時代の風俗とか地理の説明とかいろいろ面白いものができると思う。
断固たる覚悟おすすめ度
★★★★★
子供は親を選べない。欲しい才能も選べない。そんな葛藤の中、索太郎が選んだ道は
尊敬する人の邪魔をしないこと。一見、控え目な心構えだが、
死をも厭わぬその徹底した覚悟は本物。
そして、索太郎を育てた志摩は言わずもがな凄い。自分にも厳しいが、吐鉤群にも厳しい。
あの時代の侍の凛々しいイメージにぴったり。
一人の男として命を永らえることより、最後まで吐鉤群として生きて散る道を後押しした。
下手に命を大切にすることに疑問を感じてならない。日本人ならではの感情かもしれないが
日本人でよかったと誇りに思える感情である。自分にも命を超えて、全身全霊を掛けれる
何かがほしいと素直に思いました。
久しぶりに悲しみではなく、凄い!と身震いのするような死に様を見ました。
さぁ!後がなくなった吐鉤群の決死の覚悟に逸刀流は応えることができるのか!!
終わりを見たいけど見たくない!おすすめ度
★★★★★
現代漫画家が描いた時代劇漫画の中では、おそらく最高傑作の「無限の住人」シリーズ第22巻です。
最終章に入って、ますますストーリーは面白さを増しています。本作が、初期のやや荒唐無稽なノリから変わったのは第3巻、第4巻辺りですが、その頃から感じられた独特の空気が、この巻ではさらに濃くなっています。
時代小説のような「侘び」「寂」「風雅さ」。苛烈な剣劇のみならず、高い芸術性を宿すこの空気。これを同時に描けるのは沙村広明のみ!と言い切ってもいいぐらいです。
卍や凛の活躍も無論最高に面白いのですが、最終章では、天津や凶たち「逸刀流」の興亡を中心とした物語展開になっています。それが「時代劇」から「大河ドラマ」へと本作を昇華させたようで、ただページをめくっているだけで、ぐいぐい引き込まれてしまいます。いや、本当に面白い! 凄烈な死闘と高雅な雰囲気。いまこれほど独自の空気を放っている作品は、他では「ベルセルク」ぐらいしか見当たりません。
間違いなく、読まなければ損!の作品です。
いよいよ最終章
おすすめ度 ★★★☆☆
このシリーズもずいぶん長くなってきました。
このマンガを知らない人の為に簡単に紹介すると、江戸で剣法道場を営む両親を殺された少女・凛と、彼女が助っ人兼用心棒として雇った万次という浪人が、両親の仇である剣客集団の「逸刀流」を追う話。まとめて書くととそうなってしうんですが、その大筋はまだ生きているものの、今ではストーリーは少しずつ変容していき、個々のアクの強いキャラクターたちに押され、この巻では残された「逸刀流」は江戸を所払いとなるも、それを追いかける江戸番頭部隊、それを追いかける凛と万次という展開になっています。
「逸刀流」の剣士たちが次々と死に新しいメンバーに入れ替わったせいか、はたまた凛が何度か統主と合ってしまって昔ほどの憎しみを持てなくなっているのが影響しているのか、どちらかといえば凛や万治は戦いの中心にいなくなっています。残念なことに、それと同期して物語もパワーダウンしているような気がします。
主人公達の造詣が、「無限の住人」のタイトル通りに不老不死の再生する肉体を持つ「百人斬り」の万次といい、逸刀流統主の天津影久、彼の揺籃の師である乙橘槇絵、無骸流の百淋などどのキャラをとってもキャラがたっているし、力強く物語りを転がすだけの力を全員がもっているだけに近頃はちょっと勿体ない展開をしています。とはいえ、どうやらシリーズも最終段階に入っているようで、ここ数巻で物語はたぶん幕となります。
中盤迄のようなわくわくどきどきするような展開はちょっと難しくなってきていますが、ここまででも十分傑作の名に値するだけの作品だっただけに最後をどう締めるか期待しつつ見守っています。