大味なのはルーカス&スピルバーグのせい?おすすめ度
★★★☆☆
映画を人海戦術で取るのが「大作」だった時代のカンヌ受賞作。確かにスケールは大きいんだけど、同じ負け戦を描いても「乱」ほどの残酷さ、文学性が無い。かといって、モノクロ黒澤時代劇の大衆性・娯楽性があるかというと、それも無い。
僕は時代劇ファンなので、武田・上杉・織田・徳川といった諸将も出てきてそれなりに楽しめたが、そうでない人には中途半端な作品に映ると思う。色んな意味で次作「乱」は黒澤明にとってリベンジ企画だったのではないか。
この大味な印象の理由としては、内面描写が今一つであることが挙げられる。例えば、仲代達矢はやはり素晴らしく上手い俳優で身体の動きがキレまくってるものの、シナリオのせいか編集のせいか、なぜ影武者がそこまで武田信玄を愛したのかよく分からない。他の黒澤作品は脚本や映像の妙が冴え渡ってる作品も多いが、そういえば意外に微妙な心情描写のカットとかなくて、登場人物がべったりキャラクターとストーリーに塗られて、人間性の上に台詞が上から当てがわれてるような作品が多いような気がする。(考えがあってそうしてるのかもしれないけど。)
本作はその作風が大味な方に作用しちゃったのかな。
若い頃は何もわからなかった
おすすめ度 ★★★★★
私が劇場で見た数少ない映画のひとつである。大学に入って最初に読んだ小説が山岡荘八の「徳川家康」。戦国の武将を描いた小説を読み漁り、英雄豪傑の生き方に酔いながら学んでいた、何とも幼稚な時代であった。そんな頃に公開された映画である。私は数多く流されたテレビCMのセリフを暗記し、サントラのレコードを買い、勇んで劇場に向かったのであった。しかし何だかはっきりしないままに終わってしまい、「歴史を知らないとよくわからない映画」だと思いこんで、実際何人かにはそう話した記憶がある。
今回20数年ぶりに見直して、二十歳前後の私の理解力がどれほど足りなかったかを痛感した。当時から賛否両論あった作品であるが、映像はどのシーンも「絵になって」おり、登場人物一人一人の心の物語として、実に含蓄の深い作品に仕上がっている。武田信玄の肖像画には最初に予定された勝新太郎の方が似ているけれども、ここは仲代達也の方が役柄に合っていると思う。また、カラヤン指揮によるペールギュントの音楽よりも実際に使われた池辺晋一郎の新作の方が、音楽的にもはるかに人間の悲しき宿命に忠実である。
なお、群雄のセリフはまったく記憶どおりであった。昔のことはよく覚えているものだ。