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影武者<普及版>

黒澤明
おすすめ度:★★★★★
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映像の素晴らしさと内容のバランスがとれていない!?
おすすめ度 ★★★★☆

何しろあの同じ人間が三人いるというオープニングから、信玄になりそこねた影法師が風林火山の旗の横を素通りしていくラストまで、そのインパクト+ダイナミズム+格調のある映像の数々にため息の出てくるような作品だと思います。  照明はもちろん自然描写にいたるまで、既成の表現にならうのではなく、あくまでも自分流の映画表現を創りだそうとする並々ならぬ気迫に、あらためて黒澤明が映像で物語を語る作家なのだということに気付かされます。 “羅生門”がヴェニスでグランプリを取ったとき、あれは日本のエキゾチズムが西洋人に受けただけだという批評もあったそうですが、エキゾチズムを云々するならこの作品における華麗な衣装のほうがずっと上をいっていると思います。 まさに映像面に関しては動く美術品と言っても過言ではない作品だと思います。

しかしながらこの作品、映像が素晴らしければ素晴らしいほど、ストーリー上の不可思議さが浮き彫りになっていると思います。 なにしろ主人公の影法師が、何故武田家にあそこまで殉じる気になったのかが観客の方には伝わってきません。 彼が信玄に実際に会ったのはオープニングの5分間だけで、その時にも確かに信玄の持つオーラに圧倒されている様子は描かれているのですが、あれだけで一人の人間(それも盗っ人)が自分の人生そのものを他人のために捧げる気になるーという展開はちょっと無理があると思います。 結局、そういう人もいるのかなあーという、なにやら頼りなげな理由付けを強いられるので、その後のストーリー展開に感情移入することが難しく、大部分の観客は終始一歩距離を置いたスタンスで見るしかありません。 この辺は明らかに脚本の弱さに原因があると私には思えます。 過去の黒澤作品においては、このような内容上の無茶な押し付けはありませんでした。 もしこの弱点を克服して、映像面と内容面のバランスがとれていたら、ちょっと物凄い傑作になっていたのではないかと思えるだけに惜しい作品です。



はきり言ってムチャクチャ面白い
おすすめ度 ★★★★★

そりゃ七人の侍や用心棒など黒澤絶頂期の作品と比べては見劣りするのは当然。あそこら辺の作品と比べてはいかんですよ。この作品は黒澤明という名前をひとまず捨てて見てみましょう。するとこの映画の面白さが理解できるかもしれません。はっきり言って合戦シーンとかは抽象的すぎます。昔の黒澤映画のあの迫力を期待してみたらそりゃ肩透かしを食らうでしょう。しかしこの映画、人間ドラマとしてしては超一品です。仲代達矢演じる盗人が信玄に最初は反発しつつもやがて信玄に心酔し、影武者として数々の修羅場を潜り抜けていく様がとてつもなく面白い。それに大滝秀治を始めとする重臣たちの右往左往ぶりも黒澤演出ならではだ。最後仲代影武者の正体がばれ今まで家来だった皆から泥をぶつけられ屋敷から去っていくシーンは雨。ああ黒澤映画なんだなぁと納得。初見の時ガッカリした人も多いと思うが、年数を経てもう一回見て下さい。それでも分からなければあと5年先に見て下さい。必ずこの映画の面白さに気づくはずです。最近公開されている凡百の映画の何百倍も質がいい映画です。面白い映画です。ぜひDVDの値段も下がったこの機会に鑑賞してください。おすすめです。



織田信長
おすすめ度 ★★★★★

結局、織田信長のための映画のような気がしました。
明智さんや羽柴さんが出演していればさらによかったと思いました。
その後の織田信長を知りたくなる映画でした。



大味なのはルーカス&スピルバーグのせい?
おすすめ度 ★★★☆☆

 映画を人海戦術で取るのが「大作」だった時代のカンヌ受賞作。確かにスケールは大きいんだけど、同じ負け戦を描いても「乱」ほどの残酷さ、文学性が無い。かといって、モノクロ黒澤時代劇の大衆性・娯楽性があるかというと、それも無い。

 僕は時代劇ファンなので、武田・上杉・織田・徳川といった諸将も出てきてそれなりに楽しめたが、そうでない人には中途半端な作品に映ると思う。色んな意味で次作「乱」は黒澤明にとってリベンジ企画だったのではないか。

 この大味な印象の理由としては、内面描写が今一つであることが挙げられる。例えば、仲代達矢はやはり素晴らしく上手い俳優で身体の動きがキレまくってるものの、シナリオのせいか編集のせいか、なぜ影武者がそこまで武田信玄を愛したのかよく分からない。他の黒澤作品は脚本や映像の妙が冴え渡ってる作品も多いが、そういえば意外に微妙な心情描写のカットとかなくて、登場人物がべったりキャラクターとストーリーに塗られて、人間性の上に台詞が上から当てがわれてるような作品が多いような気がする。(考えがあってそうしてるのかもしれないけど。)

 本作はその作風が大味な方に作用しちゃったのかな。



若い頃は何もわからなかった
おすすめ度 ★★★★★

私が劇場で見た数少ない映画のひとつである。大学に入って最初に読んだ小説が山岡荘八の「徳川家康」。戦国の武将を描いた小説を読み漁り、英雄豪傑の生き方に酔いながら学んでいた、何とも幼稚な時代であった。そんな頃に公開された映画である。私は数多く流されたテレビCMのセリフを暗記し、サントラのレコードを買い、勇んで劇場に向かったのであった。しかし何だかはっきりしないままに終わってしまい、「歴史を知らないとよくわからない映画」だと思いこんで、実際何人かにはそう話した記憶がある。

今回20数年ぶりに見直して、二十歳前後の私の理解力がどれほど足りなかったかを痛感した。当時から賛否両論あった作品であるが、映像はどのシーンも「絵になって」おり、登場人物一人一人の心の物語として、実に含蓄の深い作品に仕上がっている。武田信玄の肖像画には最初に予定された勝新太郎の方が似ているけれども、ここは仲代達也の方が役柄に合っていると思う。また、カラヤン指揮によるペールギュントの音楽よりも実際に使われた池辺晋一郎の新作の方が、音楽的にもはるかに人間の悲しき宿命に忠実である。

なお、群雄のセリフはまったく記憶どおりであった。昔のことはよく覚えているものだ。


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