森茉莉の文体について おすすめ度 ★★★★★
森茉莉の独特の文体について、文体論の専門家である中村明がその魅力を点描しているのが参考になる。中村はかつて『名文』(ちくま学芸文庫)で、野間宏や瀧井孝作らの悪文を、特殊な名文として取り上げたが、森茉莉の文章もそれらに類するという。『名文』のほうには、森茉莉は取り上げられていないが、そこに含めることもできるだろう。
それにしても森茉莉の文体は独特である。例えば、中島敦の「光と風と夢」において、形容詞が名詞を修飾する際に、「その底に動く藍紫色の・なまめかしいばかりに深々とした艶と翳」のように、わざわざ形容詞と名詞のあいだに「・」が付されている例がある。何回となく使われるこの符号には驚いたものだ。また野坂昭如がときどき助詞を使わずに生み出す文体は独特のリズムを創出しており、他の作家と一線を画しているだろう。しかし、森茉莉の一見不可思議な句読点法は、それら以上にインパクトがあるといってよいだろう。
余談だが、どこかの出版社から『靴の音』が文庫化されることを期待しているのは私だけであろうか。
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