恩師の暗殺を手引きするファシスト青年と美しい女性二人と最美で華麗な映像。カメラ。暗殺場面の森のシーンは凄い。なんだか。そこだけ何度も見たくなります。美女二人のあまり物語的に意味のないダンスシーンも同じで何度も見たいなんだか凄いシーンです。
目の眩むような官能的な映像美おすすめ度
★★★★★
モラヴィア×ベルトルッチという20世紀のイタリアを代表する作家と映画監督の夢のようなコラボレーション。
アルベルト・モラヴィアの作品は『倦怠』『深層生活』『金曜日の別荘』など様々な監督が映画化していますが、性を磁場にした退廃性のせいかポルノグラフィー的な解釈をされたものも多く、唯一原作の品格を損なわずに最高の状態で映画化されたと思うのがこの『暗殺の森』です。
流麗なカメラワークにドラマチックでありながら行き過ぎない演出、素晴らしいセットと衣装、そしてフランスを代表する映画音楽家ジョルジュ・ドルリューによるオリジナルスコア・・・一切が手抜きなく、ヨーロッパらしい映像芸術の醍醐味を感じさせてくれます。
好対照な魅力で光を放つドミニク・サンダとステファニア・サンドレッリという華やかな女優陣に対し、内省的でインテリジェントなイメージのジャン・ルイ・トラティニアンという配役もいいですね。性倒錯者の役でちらっと顔を出すフランスの個性派俳優ピエール・クレマンティ(『昼顔』『豚小屋』etc.)も素敵!
有名なタンゴのシーンの他どこをとってもフォトジェニックで、古いモード雑誌でも眺めるようなお洒落さも感じます。
ファシスト政権に弾圧を受けた作家が書いたイタリアの現代史ともダブるストーリーですが、たとえ政治色の強いストーリーに共感できなくとも、映像だけでも十分に楽しめるところは監督の優れた手腕じゃないでしょうか。
ベルトルッチは『ラストエンペラー』あたりから個性に乏しくグローバル化し、残念ながら私にはもはや興味のない監督になってしまいましたが、'70年代頃の様式的で耽美で感傷的な作品の数々は彼らしくて大好きです。感情表現の激しさと豊かさはラテンの気質ならでは。ファッションやデコレーションに対する美意識の高さもイタリア人らしいと思います。
人間の光と影・体制順応者(Conformist)おすすめ度
★★★★★
アメリカでは公開時にカットされた視覚不自由者達の結婚祝賀会のシーンの5分間が後に復元された経緯がある。カットバックシーンが錯綜しているので、一度見た時点で全てを理解するのは困難で、二度目を見るなり、ベルトルッチ監督のインタビューを見るなりすると味の出てくる映画。ドミニク・サンダが同性愛の傾向のある教授夫人を演じているが、サンダは監督がデートリッヒやガルボの雰囲気を持つ逸材として採用しただけあって、デートリッヒ風に煙草を吸ったり、女性を誘惑するシーンは男女の性を超越した美しさをみせる。原題はIl Conformista/The Conformist(体制に従う人)。ムッソリーニ時代の同性愛の傾向のあるイタリア人ジャン・ルイ・トランティニャンが主人公で、この場合“体制”はファシズムとheterosexual。主人公は、自らが他人と異なることを嫌い体制に迎合していく。プラトンの“国家”の第7巻の冒頭にある‘洞窟の比喩’が引用されており、光と影、人間の二面性といったことがテーマ。たとえ一時期“体制”であっても、影(偽り)は光(真実・イデア)に直面することで消え去ることの比喩が、見事に光と影を使った映像美で数秒のうちに表現されるシーンは必見。時代背景と舞台がパリということで、自らに当てはめて映画を見る日本人は少ないかもしれないが、日本人は体制に従う傾向があり、事実、日本も戦時中はファシストに組し、特効警察はこの映画に描かれているものに近い。最近では、横綱朝青龍のマスコミ総出の理不尽な非難に、体制に迎合した作家や芸能人が組したことが思い出される。この映画の鑑賞後の後味は重く暗いので、美しいエンタテインメントを映画に期待する人には不向き。ジュリアス・シーザーをイメージした暗殺シーンは陰惨で、サンダとサンドレッリのヌードシーンもあり(性描写はきわめて穏当)、鑑賞は中学生以上が適当(アメリカではR指定)。
混迷と錯誤の森。おすすめ度
★★★☆☆
よい映画だった。時間をおいて思い出そうとすると、ちょうど夢を思い出そうとするのに似て、あいまいなのに鮮烈な印象、前後した時間、奇妙なこだわり、おなじ顔のふたりの女、などが現れてくる。イメージに満ちているということだ。主人公の男はあまりいかさないけれども、それがかえって良いのだろう。
おつむの弱そうなジュリアがとても無垢で、彼らのなか唯一「正しい」のだ、ということを思う。暗殺の森は、混迷と錯誤の森だ。
専門的な話は映像が本職の人にまかせます。おすすめ度
★★★★★
タイトルでそのように書いておいてナンですが、それでも「美しい」と言わずにおれない作品です。
ど素人ながら「光と陰が〜」などなどと…
カットの最初が絵画的であったり、イメージボードのままなんだろうなと思うものは多数ありますが、この作品を観て「動画でいうところの絵画的」ってのはこういうことなんだろうなと。
ただ、観ただけで納得させるのはすごいことだと
物語は、すべてから逃げるへたれ男の話として楽しめました。
概要
原題の「Il Conformista」は体制順応主義者の意。時は、ファシスト支配下のローマとパリ。若き哲学講師マルチェロは、13歳のとき、同性愛者に犯されそうになり彼を射殺してしまう。このトラウマから逃れるためにファシストとなったマルチェロは、ある日反ファシストであり、マルチェロの学生時代の恩師でもあるクアドリ教授暗殺の指令を受ける。久しぶりに教授に会ったマルチェロだったが、教授の若い妻アンナの美しさに徐々に惹かれ・・・。。 ドミニク・サンダ扮する金髪のアンナとステファニア・サンドレッリ扮する黒髪のジュリアのダンスホールのシーンでは、レズビアン的雰囲気漂う艶かしく官能的な美を表現した。また、真っ白い雪に覆われた森での暗殺シーンは息をのむほどの迫力。全編、華麗にして熱気にあふれた映像が続き、文句なしに「美しい」映画。『ラスト・エンペラー』『シャンドライの恋』のベルナルド・ベルトルッチの代表傑作だ。(齋藤リエ)