いつか陽のあたる場所で (新潮文庫)
大好きな乃南さんの連作作品集です。
かつて刑務所に服役していた芭子と綾香
出所はしたものの世間の目を絶えず気にしつつの生活を送ります。
作品全体に派手さはないけれど、いつもながらの風景描写・人物描写の上手さには関心させられてしまう。
終始に渡って脳内映像が途切れる事がない所に乃南さんのすごさがあるんだろうな。
風紋〈下〉 (双葉文庫)
乃南さんの作品は、とても好きになれるものと、ちょっと嫌だと思う事があります。
この作品は、とても好きになれる作品でした。
殺人。もちろん、犯人と被害者には大きな大きな出来事だし、文字通り人生が変わったり終わったりするわけですが、犯人の妻や子供や兄弟、被害者の家族、警察、検事、裁判官、弁護士、記者、などなど、周囲の人たちにもものすごい影響がある事を真面目に真面目に描いて下さったと思います。
重い、重い、とても考えさせられる作品だと思います。
自分の周りでこんな事が起きたらどうしよう、とも思わされました。
何が出来るって、毎日を精一杯生きるしかないと思いました。
地のはてから(上) (100周年書き下ろし)
とても苦しい、とても厳しい話しでした。
読むほうも気持ちに余裕がないと凹みそう。
2世代の女性(母、娘)を中心に書かれています。
二人とも『生きていく』という力強さがあるけど、かといってポジティブとか、前に向かって頑張ろう!とかではなく
その時代はこんなもんなんだよと、淡々としていて、だからこそそれが生々しい。
今の時代に生きている私達から見て、良いことが全然ないんじゃないかと思える厳しさだけど
彼女達は毎日を生きている。
私は、とわと三吉の淡い恋をとても楽しみにしていて、いつ三吉が出てくるのか楽しみにしていました。
でも、私の想像とは大きくかけ離れた再会。
衝撃的過ぎて涙が出ながらも、でもそれもリアルなのかな
あんなに爽やかだった三吉が、変貌してたのも「時代」
それにしても、『ニサッタ、ニサッタ』でのあの素敵なおばあちゃんがとわだったなんて
こんなに厳しい生活をしていた祖母からもあんなにぐうたらな孫ができるなんて
けど、それもリアルか
読みながら、高村薫さんの『晴子情歌』を思い出しました。
そこまで重たくはないけど
風紋〈上〉 (双葉文庫)
ある殺人事件をめぐり、その被害者の家族などの身の上に、
ふりかかってくる影響を描いた作品。
死ぬことによって、それまで、隠されてきた感情が表に出てきたり、
死によって断ち切られた想いが、切ないです。
と、書くと、息苦しいお話だと思われそうですが、
全体を通じ、作者の優しい気持ちのようなものが、感じられ、
題材の割には、読み易い作品だと思います。
凍える牙 (新潮文庫)
深夜のレストランで男が炎上するという衝撃的なプロローグから、最後までずっと飽きさせません。犯人を追跡する捜査の過程も面白いのですが、人物の丁寧な描写はさすがです。女性蔑視も甚だしい中年刑事滝沢とバツイチの女性刑事音道貴子のコンビ。普通なら、あからさまに「刑事の職場に女は必要ない」という態度を示す滝沢に女性なら誰しも腹を立てることでしょう。でもどこか憎めない。貴子もただ片意地はって男に負けるもんか、とイキガってる女性じゃない。二人に共通するのは刑事という仕事に対する真剣さでしょうか。最初は反発しあう二人ですが、次第に同士ともいうべき不思議な連帯感を抱いていきます。
なんといっても圧巻なのは、貴子がバイクで狼犬を追跡するシーンです。こっちまで深夜の高速を走っているような錯覚に陥りました。
余談ですが、私も狼犬を飼ってみたくなりました。これを読んで音道貴子のファンになった方は、「花散る頃の殺人」もあわせて読むことをおすすめします。