本作は1日の出来事をクジラを軸に描いていくのだが、特に何も起こらないで110分が終わる。これがホントに何も起こらないので、ちょっとびっくりしてしまう。俳優たちも演技というより、日常の会話を楽しんでいるようだ。それでも石川寛作品のような「心から俳優任せきり」の感じではなく、行定監督の実力も十分活かされている。俳優の中では、特に池脇千鶴が相変わらずの演技力で魅せる。動物園デートのシーンなど、あまりに自然すぎて自分も映画の中に入り込み、疑似デートができているような感覚に陥る。田中麗奈や妻夫木聡はいつもの役柄の延長線上であり、安心して観ていられるが、その間に入ろうとする伊藤歩が今回はとてもナチュラルでよかった。日常を描くことでカメラワークの「技」もさほど必要ではなく、行定監督の盟友、篠田昇の弟子・福本淳によるシンプルな絵作りが好感だった。まったりとした映画で、ほのぼのしたい時にはぜひお勧めしたい一作である。
空気感がいい。おすすめ度
★★★☆☆
ある一日をただ映しただけ、といったような、とても自然な感覚に溢れた映画です。
本当にこういう人なんじゃないかと思ってしまう程、
出演者達が見せる自然体の演技に驚かされます。
特に酔っ払ってからの田中麗奈と伊藤歩の掛け合いには笑わせて頂きました。
今作の彼女達の演技は最高です。
ただ、彼等の話と同時進行で鯨が岸にうちあげられる話や、
ビルに挟まってしまう男の話など、
その日一日に起こった出来事が描写されるのですが、必要だったのかと疑問に思います。
それぞれの出来事も面白く描写されていますし、
劇中、仲間で飲んでるときにTVでときどき出てくるので、
日常を演出するという意味においては効果があったとは思います。
だけどシーンとして結構長い。
そのせいで映画全体の印象が散漫になってしまった感じは否めません。
舞台が夜や部屋の中がメインということもあり、終始暗い印象もあります。
今作の柏原収史はいいですね。
「どてら」を着た、いわゆるいたって普通な大学生を好演しています。
本人や仲間達にはもう当たり前になってしまって意識さえしてないんだろうなと思わせる、
彼が仲間との間に見せる優しげなセリフや態度に好感を持ちます。
途中、車に轢かれるシーンがありますが、大袈裟に描かれることなく淡々と話しは進む。
ひき逃げだ!大事(おおごと)だろ!って突っ込みたくなりますが、
そういえばあの頃、とにかく面倒臭いことは嫌だったなあって思い出したりして。
車に轢かれ、しばらくして気がつく柏原収史。
彼が電話をした相手は「警察」ではなく女性だった。
おそらくほのかに恋心を抱いているだろう幼馴染。
そこで話される会話もドラマチックなものではなく、
彼等の普段の会話なのだろうと思わされる自然さで描かれる。
本人は自覚してるのかしてないのか分からない、
だけどその子のことを注意して見てるとなんだか気付いてしまう、
ああ、やっぱり田中麗奈は妻夫木聡のことが好きなんだろうな、ってことに。
そんな風にぼんやりと思わせられ、あたかも皆の仲間だったかのように錯覚して
映画を見ている自分がいることにハッとさせられる。
伊藤歩はとても魅力的な人である。
彼女はお酒のCMで、上京して一人暮らしの生活をしている役を好演していますが、
今作でもとても良い演技をされています。
お酒が入ると情緒が不安定になってしまう。
さっきまで笑ってたのに泣いている、泣いてたかと思えばもう笑ってる。
いるなあこんな子、誰だったかなあと思わず自分の仲間の顔を巡らせたり。
豪華なキャストでよくこんな地味な映画を撮ったなと変な感心をしてしまいましたが、
監督を知って納得です。
行定さんでしたか。
大袈裟な演出など皆無ですが、
「日常」を「自然」に見せるこの映画はとても素敵なものでした。
見終えた頃には、彼等があなたの仲間になっていることだと思います。
笑える☆おすすめ度
★★★★☆
特に実りのある内容では無いのですが楽しんで見れると思います。ギャグも効いてます。逆に行定監督の『贅沢な骨』などがお好きな方はあまりハマらないかもしれないです。というのも私自身がそうだったので。
1度レンタルビデオなどで借りてみてからの購入をおすすめします。良くも悪くもわかり易いので1度観たらまぁいいかなぁという程度の内容です。
会話回しにハマる。
おすすめ度 ★★★★★
特にしっかりしたストーリーがあるわけでもないのに、目が離せない。
日常を切り取ったかのような会話回しにもハマる。特に、柏原収史と三浦誠己が良い。
個人的には松竹芸人Over Driveの石野敦士にもっとおいしいシーンをあげて欲しかったが。
「世界の中心で、愛をさけぶ」や「北の零年」でお金儲けに走った感のあった行定監督だが、次の作品への期待が高まった。それはきっと資金集めで、次こそだと。
概要
『GO』などの行定勲監督が、妻夫木聡、田中麗奈ら、日本映画界を代表する若手俳優を集めたアンサンブル・ドラマ。ある一日の午後から翌朝までの短い時間を描く。京都の大学院に進んだ正道の新居に、引っ越し祝いで集まる友人たち。酔っぱらって本音を吐き出す者。能天気にくつろぐ者。彼らの一夜の人間模様に、ビルの隙間に挟まれた男と、浜に打ち上げられたクジラのニュースが同時進行する。微妙に時間軸がずれる手法も、あざとさはなくすんなりと全体になじんでいる。
関西弁を流暢にこなし、リアルな会話を交わす俳優たちのおかげで、観ているうちに、いつしか飲み会の輪に入っているような錯覚を覚える。ふたりの女性の間ではっきりと思いを言い出せない妻夫木、酔って男たちの髪を切る麗奈など、すべての動きや表情がナチュラル。だれもが自分と似たようなキャラを発見し、心地良さと切なさに包まれる。夜の宴会はもちろん、朝の浜辺に至るまで、映像もその場の空気感を的確に伝え、正道の家を中心にした京都の町屋の風景がノスタルジーを誘う。(斉藤博昭)