魚器は「なき」って読むんです。おすすめ度
★★★★★
魚器にはひとつひとつ思想が込められています。つまり魚器は明和電機のインターフェイスです。このストイックな外観をもつ魚器たちは、その用途とは往々にして裏腹に優しくて暖かいです。それは飾り立てた言葉よりも素っ気ない一言の方が効く事に似ています。
明和電機の代表昨、「魚器(なき)シリーズ」をコンセプトとともに解説紹介した一冊です。ページをめくるたびに、彼の(発刊当時は彼等、でした。)卓越したデザイン・思想、そしてユーモアのセンスに驚愕します。今時風に言うならば、今更ですが「明和電機マジヤバい!」というところでしょうか。
概要
目の覚めるようなブルーの表紙、その裏には「ねん」「くみ」「なまえ」の記入欄。この装丁が表すように、本書は少年向け科学書のフォーマットで書かれている。科学史や生物学とファンタジーが入り交じった解説と、それに反してきわめてリアルな設計図によって、AからZまでの通番のついた「魚器」たちを紹介していく。 魚器とは、魚の形や魚にちなんだ名前を持った、明和電機の一連の作品群を指す。彼らにとって、魚は人間の思考という抽象的なものの比喩としての存在であり、魚器は「魚を使った自分自身のシミュレーション」(「ところで魚器シリーズってなに?」より)なのだ。
彼らのステージではすっかりおなじみの「サバオ」や「パチモク」、商品化第1号の「魚コード」のようなメジャーな作品から、「金魚のフン」のようにほとんど理解不能な作品まで、彼らの造形への欲求と、思想を形にすることの産みの苦しみが一堂に会した様は、壮観と言うしかない。
巻末には代表取締役・土佐正道による「解説」が用意されている。彼らのリアルな開発秘話がつづられたこのページの存在が、観念的な作品解説と表裏一体の関係となって、本書、さらには彼らの思想に厚みを持たせている。
写真や図版を多く用いることで、作品を見たことがなくても、その作品が生き生きと動いている様が容易に想像できる。一度本書を手に取ったら最後、ファンならずとも明和電機の世界につい引き込まれてしまうのは間違いない。(大脇太一)