本作でデビュー?した猟犬捜し専門の探偵、竜門。相棒のジョー(犬)と一緒に事件を解決する。と書くとチョット触手は伸びないかもしれませんが、良質なハードボイルド小説集となっています。ハードボイルドを「男の生き様を描くこと」と定義すれば、本作は紛れも無く、ハードボイルド小説、それも第一級品です。
短編集ですので、気になった人は手にとって下さい。でも表題作だけではなく、他の編についても、男の物語が詰まってます。フライパンで脂の塊とハムを焼くシーン。よだれが止まりません。
しかしもう作者の新作を読むことができません。このような良質なハードボイルド作家を私はこれまで見逃してました。人生はただ一度。全ての作家に出会えることはあり得ません。本作を描いた稲見一良と出会えたことを素直に感謝したいと思います。
去年の私のベストワンですおすすめ度
★★★★★
稲見一良のことはまったく知らなかった。今回「この文庫が凄い」で06年度第二位になったことで読んでみた。結果、ずーと手元においておきたい一冊になった。値段は税込み500円。本の厚さからいって100円ほどサービスしているような気がする。稲見一良の文章を広めようとして、遺族・出版社ともに儲け部分を削ったのだろうか。そう、稲見一良はすでに故人だ。活躍期間は89年から94年の5年間のみ。5冊の本が残された。処女長編「ダブルオー・バック」を刊行した時点で、医師から余命半年と宣告されていたと言う。
ガンはいつの間にか特別な病気ではなくなった。ガンを克服する人は多い。ガンで亡くなる人はさらに多い。ガンを告知されて、余命を延ばしながら素晴らしい仕事を成し遂げた人も枚挙にいとまない。例えば、余命は延ばさなかったが、「一年有半」の中江兆民、近くは約一年と少しで五冊の著書と旺盛な講演活動をした考古学者佐原真、今現在闘っている辺見庸。
みんなに共通しているのは、死を見つめていない、ということだ。死は見つめなくとも目の前にある。だとしたら、見つめるのはそこからしか見えない生の世界だ。とくに稲見一良はその人柄か、本当にやさしく見つめている。
中篇「セントメリーのリボン」で少女は犬専門のこわもての探偵、竜門卓に言う。
「無愛想に見えて、気配りのある優しいお人やから。」
「わたしがか?」
「とぼけてもだめ。自分でもわかっているはずや‥‥‥」
感動に飢えている方におすすめ度
★★★★★
残念ながらこの作家の本をもう読むことは出来ません。
男の矜持と銃を書かせたら日本ではトップクラスの作家だと思います。
短編集ですがどれも心を打つ作品ばかりで、何故か心に残ります。
私は多分10回は読んだと思います。
ふと本棚で見かけると手に取る、そんな本です。
男の矜持
おすすめ度 ★★★★★
これほどまでに切なく、暖かく、引き締まった文章は
滅多にお目にかかれるものではない。
ハードボイルドとしての空気感以上の余韻。
全く惜しい、この作家がもうこの世にいないなんて。