作者も知らず、タイトルも知らず、帯買いしました本書。その完成度にびっくりしてしまいました。帯のうたい文句は「誇り高き探偵たち We Loveハードボイルド」という企画シリーズです。でも本書には探偵が出てきません。プロローグに出てくる青年の「夢」の物語のような数編の物語。そしてその物語たちは静かな時を読者にプレゼントしてくれる。その静けさは登場人物達が作り上げている。現実と幻想のちょうど境目を辿るような物語たちが、僕たちに示してくれるのは「生きる」意味。めずらしい鳥を撮ってしまう男、絶滅したリョコウバトの話、狩りの上手な少年と生きる意味を見出したおじさん、脱獄囚を山中に追う日系二世とインディアンの末裔、鳥と亀に救われた少年、デコイと少年の話、この六篇の根底に流れているのは「生きる」ということである。静かな文体であればあるほど、読者に文章が迫ってくる。いい読書ができた。山本周五郎章は裏切らない、と読書好きの同僚が言ったことがあったが、本書を読めばその言葉が本当であったことを理解できる。
まさにこれこそハードボイルドおすすめ度
★★★★★
やたらキザだったり、減らず口をたたいて人を怒らせたり、意味もなくカーチェイスをしてみたり、強そうに見えないのに殴り合いに巻き込まれたり、女に関してはなぜかやせ我慢をしたり・・・そんなハードボイルドも勿論いいけど、この筆者の書く「ハードボイルド」はひと味違う。
登場人物は派手な活躍もしないし、暴力沙汰や恋愛沙汰も少ない。激しく自己主張はしないが、芯が強く、誰にも犯しがたい気高い魂を胸に抱いている。そんな男や、女や、子どもが、静かにたたずむ本なのです。
なにしろ、たとえば記録映画のカメラマンが珍しい鳥に心を奪われるという「望遠」の主人公は、<何もしない>ことでハードボイルドを成立させています。「デコイとブンタ」は、デコイ(カモ猟用のおとりの模型)と主人公の少年の奇妙な友情がテーマです。
大自然を舞台にした心にしみ入るハードボイルド。山本周五郎賞受賞の名に恥じない、大傑作です。
ミステリやハードボイルドのファンだけではなく、万人に読んでもらいたいと思います。
星が足りないおすすめ度
★★★★★
とにかく素晴らしい。ハードボイルド、ミステリー、冒険、ファンタジー、童話。どのジャンルにおいてもこれほど端麗、襟の正された文章やその舞台設定、人物造型の巧みさは他に例を見つけるのは難しい。
極めて読みやすく、明快なストーリーの連続でありながらいつまでも長引く心地よい余韻。傑作。
美しく厳しい男の世界がここにある
おすすめ度 ★★★★★
狩猟、あるいは自然、動物をとおして物語られる男の世界がここにある。抑制の効いた筋肉質の文体、壮大なスケールを感じさせる美しいストーリーはみごと。たしかにハードボイルド小説だ。久々に澄み切って、美しい短編集に出会った。
しかし作者はすでに故人。
あまりにも、惜しい。