いっしん虎徹 (文春文庫)
刀剣業界には「虎徹を見たら贋作と思え」という格言があるそうです。
生前から人気が高く、現在では本物はまず入手できないとのこと。
本作の主人公はその長曽祢虎徹!
この本の最も素晴らしいところは、日本刀作りの迫力が文章からビシバシ伝わってくるところです。
以前、刀匠河内國平さんの鍛冶場を見学させて頂いたことがありましたが、その時の様子と文章がピッタリ重なっていて読んでいる途中に刀を打つ音が聞こえてきそうなぐらいでした(笑)
これも作者の知識と綿密な取材によるものなんだろうなと思います。
また、そんなにたくさん出てくるわけではないですが、刀で人を切るときの描写も「この人一回ぐらい刀で人を切ったことあるんじゃねえの?!」と疑ってしまう程にリアルで凄い迫力でした(笑)
頑固な職人が刀を一心に作り続ける静的な迫力と、その刀を振りおろして人を切るときの動的な迫力。
そのどちらもこんなに上手く表現できる人はなかなかいないと思いますし、両方を一冊で味わえるのですから本当に傑作だと思います。
巻末の「取材にご協力いただいた方々」のところに河内國平さんのお名前があり、さらに作中の虎徹の火床は河内さんの鍛刀場のものがモデルとなっていると書かれていました。
そりゃあ見学させて頂いたときのことを思い出して当たり前だ(笑)
よく見ると、カバーの題字も河内さんが書かれています。
それは置いといて、
要は一人の刀鍛冶が凄い刀を作る、ただそれだけの話なんですが、ただそれだけの話がここまで深く面白いものになったのは虎徹自身の魅力と作者の力量が素晴らしいからでしょう。
日本刀に興味がある方なら絶対に、絶対に読んで損は無いです。
利休にたずねよ (PHP文芸文庫)
どこまで史実に基づいているのか
わかりませんが、波乱に満ちた
千利休の人生から眼が離せず
一気に読みきってしまいました。
時系列を現在から過去に
逆に綴っていく展開も、私にとっては斬新で
千利休が、どのようにして茶の世界、芸術美の世界を
周囲が恐れるほどにまで突き詰めて行ったのか。
千利休の恐れだけでなく、
周囲をも畏怖というなの恐れで
巻き込んでいく人間力に圧倒されてしまいました。
ラストシーン。
宗恩のその後が気になります。
彼女は行き続けたのでしょうか。それとも・・・
利休にたずねよ
この本を最近、読了した。
根底に流れる、利休の業の深さに共感する所もあり、身じろぐ所もある。
物語として一級のエンターテイメントである事は疑いようもなく、利休や周辺の物語が好きな人には
えも言われぬ読後感が漂う事請け合いである。
何かを成し遂げる人が背負っている業というもの。章を重ねる毎にその深淵に迫る様はさすがだと思いました。
ジャンルは違いますが、「へうげもの」が好きな人はぜひ読んで見て下さい。
へうげもの(1) (モーニングKC (1487))
命もいらず名もいらず_(下)明治篇
禅僧の白隠をしても「禅の病気」と言い放つ禅師によって「あるがままをよし」とする富士山を眺めての悟りが秀逸。維新後の水戸藩(茨城県)、唐津藩(佐賀県)などの騒動をあっという間に治めた鉄舟の極意は、適材適所。全てを自分でやろうとしなくなった鉄舟は無敵に。
命もいらず名もいらず_(上)幕末篇
私は最近、つくづく「人間一番大事なのは外見だ」と思うのである。貌(かお)がイイと云う事が、何より大切なことだと感じるのだ。
本作の主人公、山岡鉄舟という御仁をはじめ、幕末・明治の英傑たちの多くは真影を残している。その貌の良さ、男(女)っぷりのよさには驚くばかりである。鉄舟さんの写真もウィキペディアほか、数多くネット上に掲載されているのでご覧頂きたい。紋付袴姿で、刀を手挟んだ容貌は、まさしくサムライである。また、晩年の髷を落とし、髯を蓄えた姿には、不思議と洗練されたジェントルマン的な要素も感じる。単に整った顔なのではない。何か今にもこちらに語りかけてきそうな、深みのある貌なのだ。対峙する者にオーラを発する人物の大きさを感じさせる人間っぷりの良さがあるのだ。
本作はその鉄舟の魅力を余すところ無く描いていて、一陣の涼風が身体の内を駆け抜けて行くような爽快感に満ちている。剣術と禅と放蕩に明け暮れる鉄舟の一直線の生き方が、小事に汲々とする平成の小市民に問いかけるモノは甚だデカい…。鉄舟のさんに、貧弱なわが肩にビシリと警策を与えられた心持だ…。
ことに特筆すべき場面は、官軍の東征大総督参謀の任にあった西郷さんとの会見のシーンである。それは、幕府だとか官軍だとか、自らの立場や面子など全く問題とせず、日本国と民草を思い、江戸を戦禍から救った男たちの静かな叙事詩である。ふたりの包み込むような笑顔に私自身が対面したような、清々しい読後感に酔いしれた。
130年ほど前に、こうした痛快な男たちが舵をとっていたこの国の、今を治める政治家や自衛隊の元幕僚などの貌を目にするにつけ、前述の通り思わずにはいられないのだ。
人間、一番大事なのは、容貌(かお)だと…。命もいらず名もいらず_(上)幕末篇