運命じゃない人 [DVD]
こういう言い方はずるいかもしれないが、“なんともいえず”面白いのである。
時間の軸を行ったり来たり。
推理ドラマの意外な結末への驚きとは違った種類のささやかな発見の連続が
楽しくて仕方がない。
たった一晩の出来事を巧みな脚本で一つの映画に仕立て上げたその力量に大いに舌を巻く。
ここまで周到に練られていると、宮田君にとって彼女は“運命の人”であったようにも
思えるのだが、それは私たちが一歩引いた所からこの物語を眺めているからだろう。
実際当事者の彼にとっては、いつもと何らかわりのない夜にたまたまあった女だった
わけですし。
周囲の人々がみえないところでゴタゴタを起こしているのに、
いたってマイペースな“運命じゃない”二人の姿にくすりとさせられる。
日本映画、まだまだ捨てたモンじゃない!
ひどい感じ──父・井上光晴 (講談社文庫)
『虚構のクレーン』というタイトルに惹かれて読んだのが、井上光晴という作家を知った最初だった。無骨な文章なのだけれど、その分力があって、ひ弱なインテリなんて問題外、そんな圧倒的なパワーで押しまくられ卒業論文は井上光晴を選んでしまった。しかし、この本を読んで、やっぱり井上光晴に騙されていたか・・・という想いを強くした。でも、実際には炭坑で働いたことはなかったなんて、それはあんまりじゃないと毒づいた。「嘘つきみっちゃん」の面目躍如である。
ひどい感じ―父・井上光晴
『虚構のクレーン』というタイトルに惹かれて読んだのが、井上光晴という作家を知った最初だった。無骨な文章なのだけれど、その分力があって、ひ弱なインテリなんて問題外、そんな圧倒的なパワーで押しまくられ卒業論文は井上光晴を選んでしまった。しかし、この本を読んで、やっぱり井上光晴に騙されていたか・・・という想いを強くした。でも、実際には炭坑で働いたことはなかったなんて、それはあんまりじゃないと毒づいた。「嘘つきみっちゃん」の面目躍如である。
TOMORROW 明日 [DVD]
戦争場面を描かずに静かに人々の日常を描いて強い反戦メッセージを込めた秀作を手がけた黒木和雄監督。私は本作が同監督の最高傑作だと思う。長崎に原爆が投下されるまでの約24時間の、ある結婚式に集った人たち及びその関係者の戦時下の日常生活をきめ細かく描くことに終始するが、そこには出産、子供たちの無邪気な遊び、恋人や友との語らい、結婚、日々の仕事、夫婦の会話、恋人との語らい、そして捕虜の死といった人間の生から死までの諸相があった。そして、明日があるからと胸に秘めたままの言葉もあった。それらが一発の爆弾の一瞬の爆発で永遠に奪われてしまう悲劇。映画の中で丹念に積み上げられた人々の日常生活をいとおしく思えば思うほど、不意の中断が我々にはわかっているだけに、胸かきむしられる。監督自身が小津安二郎監督へのオマージュと言っているように小津監督の影響は感じられるけれども、監督を初めとするスタッフ独自のアイデアも一杯詰まっている。特に秀逸なのが夜の野外の場面。タルコフスキー監督のサクリファイスをふと連想するが、核の問題を告発する両作品で夜の場面が共通して素晴らしいのは偶然だろうか。小津監督といえば、当日長崎の映画館で上映されていた映画を調べて、同監督1942年の作品「父ありき」を挿入したリサーチの努力には頭が下がる。これもまた、明日を奪われた人々の日常をできるだけ再現したいという熱意の表れだろう。
ところで、昭和20年8月8日は何曜日だったかわかりますか。それがわかるカットをはじめ、至るところに8月9日午前11時2分に向かって止まらない非情な時の流れを象徴する場面が多く、一見淡々とした人々の生活を追いながら様々な仕掛けが多いことにも注目してほしい。長崎の原爆の悲劇に関しては、黒澤明監督の八月の狂詩曲とともに必見の作品だ。
日本史七つの謎 (講談社文庫)
松本清張他、などといってますが彼はあくまで対談者の一人ですので彼の歴史推理を期待して買うとがっかりします。しかし参加者が歴史学者と作家半々という構成は良い。ゴリゴリのアカデミズムでもなく、作家の垂れ流し座談会でもない興味深い読み物になっている。