概要
ドキュメンタリー映画の製作者、レオン・ギャストは数十年前、後に『キンシャサの奇跡』と呼ばれた1974年のザイールにおけるモハメド・アリとジョージ・フォアマンの対戦を収めた作品を完成させようとしていた。ところが、さまざまな要因が重なってリリースは1996年まで延期されたのである。しかし、それだけ待たされた価値は十分に見出せる。ギャストが捉えた歴史の一幕では、アリとフォアマンがアフリカの大地で試合開始まで待機を余儀なくされた6週間という時間を、アメリカ文化におけるアフリカ系アメリカ人のルーツを認識するための重要な期間であったと位置づけている。アリはベトナム戦争の際に徴兵を拒否した罪で刑務所に収監されたため、ヘビー級チャンピオンのタイトルをはく奪された。当時のチャンピオン、フォアマンはドン・キングがプロモートしたキンシャサでの試合に合意したが、両者が対戦の地に到着すると延期されてしまう。ギャストはアリがカリスマ性を帯びた人物として、試合までの数週間において人々の前に姿を現わし触れ合う姿を記録する一方で、フォアマンが仲間以外との接触を避ける様子も捉えている。また、キングはジェームス・ブラウンやスピナーズなどアフリカ系アメリカ人のそうそうたるアーティストを呼び寄せ、現地のミュージシャンと共演させる。試合のシーンでは、アリとフォアマンという巨人同士がパンチの応酬を繰り広げ、興奮や一体感が伝わってくる。ジョージ・プリンプトン、ノーマン・メイラーなどジャーナリストとして取材していた作家も、当時の状況を詳細に証言している。格闘技ファンであるか否かを問わず、これは貴重な記録であり、アメリカ人のアイデンティティに対する非常に興味深い洞察である(Tom Keogh, Amazon.com)
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