高校剣道部員を主人公にした青春小説三部作おすすめ度
★★★★☆
高校剣道部員を主人公にした青春小説三部作。同著者の他の青春小説はユーモアをまじえた軽いタッチのものが多いが、この小説は硬質の文章で書かれている。
「五月の傾斜」3作の中でも飛び抜けて素晴らしい出来。
体の底から突き上げる衝動、自我肥大的正義感、生温いくせにびくともしない現実の壁、不器用さの中で空回りする意気込み... 大人になるということは、いくつものわだかまりを乗り越えるのでなくただ置き去りにしていくだけだということなのか。読後しばらくは学生時代の感情的出来事の数々が頭を駆け巡り、いつまでも興奮が抑えられなかった。
「九月の空」
前作で芥川賞選考委員から‘女が描けていない’と指摘されたことに応え性の問題も正面から取り上げている。しかし課題をこなして賞は獲ったが明らかにレベルは落ちた。
3作ともに70年代の空気を色濃く映し出すが、たとえばこの作品では主人公の男子高校生が旅館で女子大生二人と相部屋になる(もちろんさほど心配な展開にはならない)など、現在では考えられない設定がまま見られる。
「二月の行方」
貧困や障害を背負う者の日常を同じ目線に立って見つめている。重苦しくなりがちな空気をある種のすがすがしさが貫く。これはこれで相応に読み応えがある。
愚直なまでに青春おすすめ度
★★★★☆
青春という言葉がこれほどまでにハマる作品も、今日ではなかなか無いかもしれません。
連作短編が三作収録された『九月の空』、表題作は芥川賞受賞です。
ならば純文学なのか、というと、主人公は確かに求道者的な性格、またはそういう性格でいようとしていますので純文学としての要素を持っていないわけではないです。が、そんな面倒なごたくは不要です。内容紹介にもあるように青春を爽やかに謳い上げた感動作です。文章もさっぱりしていて明快で、中学生高校生でも楽しく読めます。
主人公の少年は剣道に打ち込み、異性に対して恥じらいながらも興味を持ち、周りの大人や社会に対して言いようのない不安や反発を覚えます。もう、絵に描いたような青春劇です。
読者の全てが、そんなご立派な青春を過ごせる(過ごした)とは思えませんが、誰しも共感できる部分を心の中に持っていると思います。だから、今まさに思春期という人に読んでもらいたいですね。あるいは、もう青春時代なんて忘れちまったよというスレた大人が読んでもいいかもしれませんが。
巻末の解説は良くないです。蛇足です。その分☆一つ差し引きます。
ややストイックな主人公だがひたむきな生き方に感動おすすめ度
★★★★★
まず文体の歯切れが良い。主人公の剣道に打ち込む姿、思春期の性へ憧れ、澱んだ青春の一場面など、とてもさわやかに活写されている。著者の作品には純粋で明るい女の子が登場するのも特徴だ。そして著者の作品は実体験をもとに描かれているようなので、読むものに与える感動も大きい。この本を高校時代に手にしたときから著者の作品、そして著者の大ファンとなった。著者の本を読むたびに自分の人生に多大な影響を与えられた思い出がある。時を経て今読んでも感動は変わらない。
青春時代に感動を与えた
おすすめ度 ★★★★★
私が高校生の時に、学校の図書館で何気なく手にして読んでみたところ、同世代の主人公のストーリーに大変感動し、小説が好きになるきっかけとなった本でした。また、この本が芥川賞受賞作であることはその後に知りました。