Out: A Novel (Vintage International)
実はこの作者の本は日本語で読んだことがなかった。しかしイギリスで話題を読んでいたので思いきって英語で読んでみることにした。とてもスリリングでおもしろい。田舎の工場を設定にしていて現実感のある中での非現実的なできごと。人間後どこまでやれるかをさぐるサスペンス。英語も簡単なので英語を勉強したい人もおすすめ。
OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)
何度読み返しても面白いので好きです。
雅子と佐竹の一夜限りの悲恋?に泣きました。
分かり合えたと思った次の瞬間には別れだなんて哀しすぎる。
犯罪者とはいえ、登場人物達の鬱屈には共感できるものがあるので
捕まって終わり、みたいな陳腐なラストでないのが良かったです。
雅子の死体解体は自分の出世を閉ざした男社会への無言の復讐に
見えました。でなきゃあんな凄いことできません・・私にも無理。
不謹慎ながらあの後どうかうまく逃げてほしい、と思いました。
主人公と自分がダブって見える稀有な小説です。
でも自分だけ楽をしていた弥生には同情できず。
自分が殺したなら処理も自分でやるべきだろうに。
私はこういう女が嫌いです。
グロテスク〈上〉 (文春文庫)
東電OL事件にヒントを得たこの作品は、慶応女子高校と思われる学園での過酷な階級社会でのサバイバルを伏線として描いている。
語り手は葛飾区と思われるP区に住んでいるが、同級生から「P区に住んでいる人はこの学校ではあなた一人よ、私も実はP区に家があるけど恥ずかしいから親に港区にマンションを借りてもらっているの」といわれるシーンがある。私が入学した山の手の進学校でも、階級差別はなかったが、葛飾区でしかも京成電鉄利用者は私一人だったことからくるコンプレックスや、私鉄がストライキを解除しても京成だけがストライキを断行することが多かったがそれでも学校が休みにならないため、私一人通学するための苦労を味わったことは忘れることができない。
余談になるが、桐野氏はフェミニストの視点(本人はこういわれたくないかもしれないが私にはそのように思える)から人間や人生の闇をえぐることにかけては天才的な作家であり、大傑作『OUT』をはじめ著書は全て読んでいる。一方、東電OL事件は、先進国でありながら女性が良心や自立心があればあるほど過酷な境遇に陥っていく男社会・日本の暗部を象徴する事件であり、私をはじめ、多くのキャリア・ウーマンに「ひとつ間違えば自分も同じことをしていたかもしれない」と思わせるような事件であったので、「桐野氏が描く東電OL事件!」と大いに期待して読んだが、ストーリーはもちろん期待以上だし、こうしたおまけもついてくる貴重な読書経験であった。
「どんな絶世の美女でも、天才でも、諦めるしかない、女に生まれてしまったら」という科白が絶望感とともに、胸に迫る。
大楠道代にそっくりな美人で女であるということで得もしてきたであろう桐野氏の筆によるものだから尚更説得力がある。
もうひとつ付け加えれば、最後のシーンは、三島由紀夫の『豊饒の海』終盤で盲目の美青年と醜い狂女が寄り添うシーンを想起させ、また最終章の「彼方の滝音」というタイトルも『豊饒の海』で輪廻転生の証拠となった滝の記憶とシンクロする、と思うのは三島マニアの関連妄想に過ぎないだろうか。
魂萌え! [DVD]
夫(寺尾聡)に先立たれた専業主婦(風吹ジュン)の、女としての自立をえがいた秀作。夫の愛人役の三田佳子をはじめ、出演陣の豪華な顔ぶれを見ているとシネカノンがかなりの力を入れて世に送り出した作品であることが伺える。興行的には今一歩だったような気もするが、いつものキムチ臭さは抜け、純和風のテイストに仕上がっている点に好感がもてる。
実際に映画を見るとわかるのだが、登場人物たちの微妙な<心のゆれ>を捉えた繊細な演出が秀逸である。役者のアドリブではなく、阪本監督が一つ一つ細かい指示をベテラン俳優たちに与えたであろう工夫の跡が随所に発見できる面白さをそなえた映画でもある。
世間知らずの専業主婦が、相続のいざこざからビジネスホテルに雲隠れしてしまうくだりなどは、危なかしくてとても見ていられないものがある。強い強いと揶揄されがちな平成のオバサンではあるが、それはあくまでも家の中だけのこと。一歩外に出れば、こんなにもか弱く同情を禁じえないのは、やはり阪本監督の繊細な演出が成功しているなによりの証拠であろう。
グロテスク〈下〉 (文春文庫)
正直この小説を読み終えて現実と言う苦々しさを感じる。
しかし、この小説は実際に起きた東電OL殺害事件をベースに書かれていて、その事件が起きた当時の状況もまざまざと立ち浮かび、様々な社会問題を背景にしながら、読者を最後まで飽きさせない。
本の構成は、書き手の私が主人公の私になったり、友人の和恵が私になったりとした各々の日記や手紙を通した形になっているので、その「私」の思うがままを語っている。それゆえに、人間のシニカルな部分が露呈していて、時として愕然とさせられ嫌悪する。特に印象深いのは、学歴一辺倒で努力すれば何でも実るという神話に踊らされ、またそれに自覚せずに堕ちて行く和恵の姿は本当に読んでいて辛い。でも、そうやって他人を卑下した主人公は、自分の矛盾に気付きながらも、今度は自分が堕ちて行く。
この小説は、人はいつでも堕ちて行く準備が出来ているということを教えてくれる。