黒い花びら (河出文庫)
本書は、水原弘が駆け抜けた時代に掲載された週刊誌の記事や関係者の声を拾い、丹念にこの"酔いどれ歌手"の人生を追っている。ページをめくりながら読者の頭によぎるのは、「お酒を少し控えたらこんなみじめな死に方しなくてよかったのに」、「見栄張りすぎて金を浪費して」といった、呆れにも近い思いだろう。だが著者は、水原が周辺の人々から拍手を送られながら道徳的に生きるような「昼の論理」ではなく、「歌うこと」と「破滅へ向けての生活無頼」に生涯のほとんどを費やす「夜の論理」を生き抜いたのだと説明し、「昼の論理」の側から何を言っても「夜の論理を生きた水原弘には通用しない」という。
「水原弘は、自分のステージの上における"無頼"のイメージに、ステージを降りた後も責任をとった芸人だった……(中略)さまざまな歌手や役者がいるが、ステージやスクリーンでは恰好よく"無頼"のイメージをただよわせながら、そのフィクションの衣を脱げばほとんどサラリーマン感覚、世間的な気遣いをめぐらして蓄財に励んでいるタイプがほとんどだろう。水原弘は、それに反発して、ステージ上での気取った"無頼"を、日常の中でも演じて見せつづけた。」
関係者は言う。「水原弘の時代にも、そんなタイプは数えるほどしかいなかったけど、今はもう絶滅しましたね……」と。
著者は水原弘の軌跡を辿りながら、"無頼"の凄味を実感できたのがうれしかったと「あとがき」で書いている。
スーパーベスト 水原弘
99年発売の『全曲集』から「雪国」「素晴らしい人生」「お嫁に行くんだね」「港はまだ遠い」(これがラスト・シングル)の4曲を省き、曲順を入れ替え再構成したアルバム。ジャケット写真は、シングル「君こそわが命」の時に使用されたものと同じ、青を背景にしたおミズの横顔。収録曲は、黒い花びら/君こそわが命/黒い落葉/愛の渚/慟哭のブルース/へんな女/女の爪あと/遠くへ行きたい/恋のカクテル(モノラル)/黄昏のビギン/好きと云ってよ/マイ・ウェイ、の12曲。『全曲集』同様、「黒い花びら」など初期の楽曲は、ステレオで―「君こそわが命」ヒット後に―再録音されたテイクで収録。
今のオレと同じ年で亡くなった、ということもあって、近頃やけにおミズの歌が聴きたくなり、なかば衝動買いのように購入したけれど、これは大満足。12時間ものレコーディングを経て完成した伝説のカムバック曲「君こそわが命」などはもちろんだが、今回個人的に気に入ったのは、ボッサ歌謡、というだけでは表現しきれない深くてコクのある世界が展開される「好きと云ってよ」。大人のひとりGS「愛の渚」、聴いていると子どもの頃の思い出もよみがえって来るコミカルな“珍名曲”「へんな女」の2曲を作ったハマクラさんの天才ぶりにも、改めて敬服する次第(鼻歌みたいなノリで、肩の力の抜けた名曲を量産した彼は、やはり偉大だ)。そして、カラオケの席では蛇蝎の如く嫌われている「マイ・ウェイ」も、うまい人がしっかり歌えばこれだけのものになるんだ、と実感。オレの大好きなトム・ジョーンズ版に匹敵する出来だ。最高(おミズが和製トム・ジョーンズだというより、トムさんがイギリスのおミズなのだ!)。
歌詞カードの作者名のところに、編曲者のみ表示されていないなどわずかに不満もあるが、☆は5つ。
この星は、唯一無二である、おミズの歌声に捧げる。
黒い花びら
私は「黒い花びら」も「君こそわが命」も知ってはいるし
水原弘が歌う姿をテレビでも見てはいるけれど
いかんせん幼すぎて、ただ「目つきの怖いお兄さん」
という印象しかなかった。
その水原弘の本を何故読みたいと思ったかというと
氷川きよしくんが「黒い花びら」をアルバムに収録し
毎日のように聞いているうちに、こんなすごい歌だったの?
と感じ始めていたから。そして不遇の時代から
「君こそわがいのち」への奇跡の復活の仕掛け人が
きよしくんの所属事務所の長良じゅんさんと聞いていて
どんなドラマがあったのか知りたかったからだ。
作者は水原弘と同じ時代を生きているので、とても熱い思いがあり
物見遊山で手に取った私のような読者でもぐいぐいと
ひきこまれ一気に読破してしまった。
日本人が活き活きとし、侠気、人情がまだ元気な時代
だったからこそ誕生した歌手という印象をもった。
あのテレビ画面を通してみた凄みのような意味も理解した。
名曲といわれる曲には様々なドラマがあるだろうが
歌以上にドラマティックな人生を生きた水原弘を思うと
なんとも切ない気持ちになる。歌い継がれる名曲を
持つことができたことは歌手としては幸せなことだろう
ただ歌い継ぐ歌手は曲の背景まで踏み込まなければ
説得力のある歌唱はできまい。
きよしくんの歌声で蘇った「黒い花びら」彼なりに
「水原弘像」を学んだ上での収録だったのだろう。
でもきよしくんへ水原弘の生きた時代の蔭りは感じない。
彼なりに昇華し、新しい命をあの曲に吹き込んだからこそ
平成の「黒い花びら」が耳について離れなかったのだと納得できた。
また長良じゅんさんがよくインタビューでお話されている
「同じ匂い」「匂いで動く」の意味も少し分かった気がした。
ネット全盛の現代で人と人との関係が希薄になっている今こそ
読むべき本かもしれない。
ちあきなおみ・しんぐるこれくしょん
ちあきなおみが大型新人として鳴物入りでレコードデビューしてから、今年は35周年目に当たります。
この節目の年に、『ちあきなおみムード歌謡全曲集』を露払いとして、そして『もうひとりの私~ちあき 船村徹をうたう』を従えて、『ちあきなおみ・しんぐるこれくしょん』がリリースされたことに大変感慨深い思いがします。
ちあきなおみが、コロンビア時代(1969~1978)に放ったシングルは27枚、54曲です。(1976年に「酒場川」のB面曲として発売された「矢切の渡し」が後に評判となって、1982年にA面曲―B面曲は「別れの一本杉」―として再発売されていますが、これを含めないのが妥当だと思います。)
そして今回の『しんぐるこれくしょん』には、A面27曲の全てと、B面27曲のうちの18曲が収められています。
【註】B面曲の残り9曲ですが、6曲(「かなしい唇」、「愛の荒野」、「海郷」、「帰っておいで」、「海のそばで殺された夢」、「視角い故里」)は別売の『ちあきなおみ・これくしょん ねぇあんた』で、2曲(「忘れえぬ慕情」、「ついて行けないわ」)は通販商品『うたくらべ ちあきなおみ』で、それぞれ揃えることができますが、いずれも高価です。また残りの1曲「恋のめくら」に至っては、差別用語というおよそ文化を標榜する業界にあっては御門違いと思える理由のため、今回も収録を見送られました。
A面の全曲収録は、『ねぇあんた』で既に実現されているのですから、『しんぐるこれくしょん』ではB面曲も全て網羅して欲しかったですね。そうあってこそ、より意義あるものとなり得たのではないでしょうか。両面2曲をペアにして時系列に収録することで、ちあきなおみの歌の変遷をつぶさに知ることができるものとなり得たでしょうに、残念でなりません。
とは云うものの、初めてCD化されたB面曲が沢山あって、ファンにとっては嬉しい限りです。そして、ちあきなおみに初めて触れる方には、まず手にとって欲しいコレクションです。
2枚のディスクのラベルには、それぞれ書体の異なるちあきなおみのサインがプリントされています。1枚目のディスク(1969.6~1973.2の作品群)が前期のもので、2枚目のディスク(1973.6~1978.2の作品群)が後期のものです。その書体の変化が、そのまま彼女自身の発達・発展の証であることを、このコレクションを通じて知ることができる筈です。
男の昭和歌謡 ベスト&ベスト PBB93
それはまさに自らが若かった時代の風の音のように、心地よく響く、魂の音楽、
音の世界がタイムマシンの様に、私たちの心を、あの懐かしい時代に引き戻します。
あの時代を生きた証として! 私はこのメディアを皆さんにお勧めします。