1000の小説とバックベアード (新潮文庫)
クリスマス・テロルという過去の作品での「小説への批評」を取り込むという試みは不十分な感じでしたが、
それを更に深く掘り下げており、
苦手な方もいるかもしれませんが、個人的にはおもしろかったです。
あのメフィスト賞作家の佐藤 友哉がこういう方向に行くとはびっくりでしたが、
今まで読んだことのない物語に仕上がっていて、
読後色々考えさせられました。
作者のこれからの活躍にも期待しています。
ファウスト Vol.6 SIDE―A (講談社MOOK)
戯言シリーズもついに完結して寂しい中、ついに私の好きな零崎一族の小説が載ってました!!
その名も「零崎軋識の人間ノック2」見ての通り、第二段ですよ!?
またこうしたカタチで読めることに感謝します。
そしてもう一人、嬉しいことに乙一が帰ってきました!!
しかも挿絵が「DEATH NOTE」でおなじみの小畑健ですよ。
もう読むしかありません。
エナメルを塗った魂の比重<鏡稜子ときせかえ密室> (講談社文庫)
加筆修正されたそうですが基本的には相変わらずなんです。どっかのレビューで佐藤作品は冷たいエンタメと評されていましたがまさしくその通り。もちろん細かい違いはあります。
その違いは読んでみてからということで、本文以外でのノベルス版との違いで最も特筆すべきは解説があの上遠野浩平であることです。上遠野浩平と言えば電撃文庫のブギーポップシリーズで有名な小説家さんですが、何故この人なのかというとたぶんノベルス版の帯を書いたのが上遠野さんだったので、じゃ今度は解説を、みたいなことかもしれません。今度の解説もブギーポップではお約束になっている作者もどきの2人によるあとがき形式(わかりにくい表現ですが読めば納得するはずです)を書いています。きちんと読み込んだうえで書いてるなという内容なのもいいですが、好きな作家が他の好きな作家について語っているところはなんともうれしい気持ちになります。
自分は「水没ピアノ」が最高傑作という気持ちもわかるのですが、佐藤友哉でしか味わえない感覚というのはこのエナメルが最高峰だと思っています。
特に公園で飢餓感に襲われて……というシーンは「自分は今、この文章を読んで空腹を感じた」という自分での感覚に恐怖しました。こういった生理的な感覚(感情ではない、そこが佐藤先生の持ち味)を催すところがさすがだと思います。
今でも類似品を書ける作家はいないでしょう。えもいわれぬ感覚に支配される小説が読みたい方にはオススメの一冊です。でもやっぱり初めての人は出版順に「フリッカー式」から読んで「クリスマス・テロル」まで流れた方がいいかな…。
Story Seller〈2〉 (新潮文庫)
人気作家及び人気作家候補による短編集第2段。
沢木耕太郎「マリーとメアリー」
伊坂幸太郎「合コンの話」
近藤史恵「レミング」
有川浩「ヒトモドキ」
米澤穂信「リカーシブル」
佐藤友哉「444のイッペン」
本田孝好「日曜日のヤドカリ」
前作からは道尾秀介が外れて、沢木耕太郎が参戦。結果は、3勝5敗かな。
沢木耕太郎は物語ではなく得意のエッセーという反則(?)技使用。佐藤
友哉は、前作同様、関連する長編があるサイドストーリーっぽくて判りづ
らい(そうでなくても、あまりにスタイリッシュを狙った文章が好みでは
なかったです)。
良かったのは、伊坂幸太郎「合コンの話」。飽きさせない展開と、綿密な
構成を元にした最後でのオチ。最近の作品は実験的なものが多いけど、本
作は王道を行く感じの作品です。また、本田孝好「日曜日のヤドカリ」も、
話の展開も早く、ちょっといい話です。
短編だから空いた時間にも読みやすいし、新しい作家開拓にも適した本です。
デンデラ (新潮文庫)
会心の一作だと思う。佐藤友哉(ユヤタン)についてきて良かったと
感じさせられた作品だった。
自分の作品の中で幼い児童や少年・少女たちに襲いかかる世界の悪意、
不条理を書いてきた佐藤友哉だが、『デンデラ』に子供たちは登場しない。
描かれるのは全員、死の淵に片足を突っ込んだような老婆だけである。
そして、彼女たちにふりかかる困難も、物語の導入こそ佐藤友哉の作品に多い
「自分たちを受け入れてくれない社会」から始まっているものの、やがて悪意も
何もない、災害に近い暴力へとその焦点が移っていき、自分たちをさいなむ
現状の責任の所在を他者に求めるような展開に陥るのを、巧みに退けているように思った。
言うなれば、心も肉体も成熟した人間が小さくか弱い子供に自分を投影して
世の中を描こうとする一種のずるさを、そしていま自分が抱えている問題の
原因を自分ではなく自分以外の誰かにそらそうとする欺瞞を、この『デンデラ』で
佐藤友哉は自分にまったく許していないし、読み手にも許可していないのである。
安易にハッピーエンドとは言い切れないし、一見これまでの作品の延長線上にある
報復や反逆を再び描いたような締められ方だが、実際のところそこには、陶酔的な悲観も
大義名分のまがいものもなく、自分の中から自分をごまかすための甘えを一切
そぎ落としていった果てに、ありのままの自分が、そんな素裸の自分を力強く
肯定して突き進んでいく爽快感を感じた。
読み終えて、「よくぞ書いた」という気持ちと「まだこんなもんじゃないだろう」
という気持ちと半々。今後への期待が賞賛に若干勝ったので、星4つにとどめた。
佐藤友哉のキャリアにおいて決定的な意味を持つ作品だと思うので、氏の作品を
未読の方だけでなく、ファンの人にこそ強くすすめたい。